法定点検を忘れていませんか?売却時に思わぬ出費を防ぐために
建物を所有していると、定期的なメンテナンスや修繕のほかに、「法令で義務付けられた点検=法定点検」が必要となる場合があります。
建物の管理を外部に委託している物件であれば、通常は点検・報告が漏れることは少ないですが、自主管理の建物ではうっかり忘れてしまうことが少なくありません。
過去、私が行った取引で、建築基準法に基づく定期調査を行っておらず、想定外の出費や是正対応が生じたケースがありました。
建築基準法に基づく4つの定期検査とは?
建築基準法第12条では、不特定多数の人が利用する建築物について、所有者や管理者が専門技術者による定期調査を行い、その結果を行政に報告することが義務付けられています。主な検査は以下の4つです。
① 特定建築物定期調査報告
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対象建築物:一定規模以上の映画館、ホテル、百貨店、学校、博物館、共同住宅など
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調査内容:敷地、建物内外、屋上、避難施設などの安全性を確認
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報告時期:原則3年に1回(用途によっては毎年)
② 防火設備定期検査報告
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対象建築物:上記特定建築物、病院・診療所などに設置された防火設備
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調査内容:防火扉、防火シャッターなどの作動状況や安全性
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報告時期:年1回
③ 建築設備定期検査報告
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対象建築物:特定建築物に設置された設備(排煙、照明、給排水等)
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調査内容:非常用設備等の安全確認
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報告時期:年1回
④ 昇降機等定期検査報告
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対象建築物:すべての建築物
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調査内容:エレベーター、エスカレーターなどの機械設備の安全性
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報告時期:年1回
※点検周期や対象の詳細は、自治体(特定行政庁)ごとに異なる場合があります。
なぜ法定点検を失念してしまうのか?
実際に点検を失念してしまっている方にお話を伺うと、「知らなかった」「通知があった記憶がない」といった認識不足が原因であることが多いです。主な理由は以下の2点です。
理由① 管理会社がいないことによる見落とし
所有者が直接管理している場合、特定行政庁からの通知が届いても対応しないまま放置されてしまうケースがあります。
理由② 初回免除制度による勘違い
一部の検査には初回免除制度(工事完了後、翌年の検査が免除)があるため、次回の検査がつい忘れられてしまうこともあります。
なお、昇降機についてはエレベーター会社とメンテナンス契約を結んでいる場合が多く、点検漏れはあまり見受けられません。
法定点検を失念していた場合の対応手順
不動産の売却時、仲介会社が行う物件調査の段階で未実施が発覚することがあります。この場合、売主の責任と費用負担で対応する必要があります。
対応の流れ
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点検業者に依頼する
有資格業者に見積もりを取り、発注先を選定。 -
現地調査を実施
指定内容に基づき検査を行い、報告書を作成。 -
行政へ報告
報告書に所有者、管理者が押印し、特定行政庁へ提出。
注意点
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調査結果によっては是正対応(修繕・交換等)が必要な場合もあります。
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特に築年数の古い建物では、対応に高額な費用が発生するケースもあるため注意が必要です。
- 現地調査から特定行政庁までの報告には、時間を要します。また、是正工事が発生した場合には、さらに日数がかかるため、注意が必要です。
まとめ
たとえ法定点検が未実施であっても、後から実施・報告することは可能です。
また、これらの点検は不動産売却時だけでなく、建物の安全性を維持するうえでも非常に重要な調査です。
特に自主管理の物件では、点検を失念しているケースも少なくありません。
一度、現在の点検状況を確認してみることをおすすめします。
なお、売却方法として、不動産会社が直接買い取る「買取」という選択肢もあります。
この場合、法定点検が未実施であっても、そのリスク(是正工事の可能性や費用)を織り込んだうえで購入することが可能です。
「早く・確実に売却したい」「現状のまま売りたい」という方は、買取も視野に入れて検討することが望ましいかと思います。